安全性

社内データを生成AIへ入力する前の安全チェックリスト

顧客情報、契約書、未公開資料などを生成AIへ入力する前に、情報区分、利用規約、学習設定、共有範囲、出力確認を点検する手順を整理します。

公開日
最終検証
次回確認
確信度
MEDIUM
生成AI情報管理個人情報セキュリティ社内ルール
生成AIへ入力する情報を安全性チェックのゲートで分類するカラフルなイラスト

この記事で分かること

社内データを生成AIへ送る前に、30秒で中止すべき情報を見分け、入力できる場合も必要最小限へ置き換える手順を説明します。

判断ルール: この手順は、自社の情報管理規程、契約、法務判断に代わるものではありません。社内ルールと判断が食い違う場合は、入力せず担当窓口へ確認してください。

先に結論

次の5つのゲートを順番に確認し、1つでも「不明」なら入力を止めます。

生成AIへ入力する前の5つの判定ゲート 入力前に「用途・情報区分・契約条件・共有範囲・人の確認」を順に通す。スマホでは図を横にスワイプできます。

  1. 用途:その情報を使う必要性と利用目的を説明できるか
  2. 情報区分:公開情報、社内限定、機密、個人情報、認証情報のどれか判定できるか
  3. 契約条件:会社が許可したサービスとアカウントで、保存・学習利用・削除条件を確認したか
  4. 共有範囲:参加者、共有リンク、コネクターなどの送信先を把握したか
  5. 人の確認:出力の事実、数値、個人情報を確認する担当者が決まっているか

「学習利用をオフにしたつもり」「氏名を伏せた」だけでは通過としません。

30秒で判定する早見表

情報区分 例 30秒判定
公開情報 自社サイトの公開ページ、公開済みプレスリリース 利用目的と出典を確認して次のゲートへ
社内限定 社内手順書、未公開の会議メモ、社内連絡先一覧 承認済みサービスと社内規程を確認できなければ停止
機密 未発表製品、契約書、原価、営業秘密、NDA対象資料 原則停止。情報管理責任者の判断を得る
個人情報 氏名、メールアドレス、社員番号、顧客履歴、複数情報から個人を特定できる記述 利用目的と契約条件を確認できなければ停止
認証情報 パスワード、APIキー、秘密鍵、セッショントークン、復旧コード 入力禁止。見つけた時点で中止する

迷った情報を「公開情報」として扱ってはいけません。判断できない場合は、より厳しい区分として扱います。

公式情報から確認できること

個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分確認するよう求めています。本人の同意を得ずに個人データを入力する場合は、サービス提供者が応答生成以外の目的、例えば機械学習に利用しないことなども十分確認する必要があります。

NISTの「Generative AI Profile」は、個人識別情報や機微情報の漏えい、無断利用、開示、推測による再特定をデータプライバシー上のリスクとして扱っています。また、AIサービスの台帳化、第三者サービスの審査、生成結果に含まれる個人情報の監視、インシデント対応、定期的な見直しなどを例示しています。

これらは、特定の生成AIサービスを一律に安全または危険と認定する情報ではありません。使用するプラン、組織契約、管理者設定まで確認する必要があります。

匿名化と単なる伏字は違う

単なる伏字は、氏名など一部の識別子を隠しただけの状態です。

伏字の例:
営業部のAさん(52歳)は、7月28日に大阪支店で大型案件Xを受注した。

氏名がなくても、部署、年齢、日付、拠点、案件名を組み合わせれば本人を推測できるかもしれません。置換表を持っていて元へ戻せる場合も、匿名化が完了したとはいえません。

ここでいう匿名化は、特定につながる要素を削除・一般化し、他の情報との照合による再特定リスクも評価する作業です。法令上の「匿名加工情報」などに該当するかは別途専門的な判断が必要です。

実データを使わずに試す

最初の試行では、実在する人物、会社、金額、日付を架空データへ置き換えます。

置換前:
株式会社青空の山田太郎様から、7月25日に未払い金1,284,600円について連絡があった。

置換後:
取引先Aの担当者Bから、2026年6月15日に未払い金120,000円について連絡があった。

依頼:
上の架空データだけを使い、相手を責めない文体で支払確認メールを作成してください。
実在する会社名、人名、連絡先、取引条件は補わないでください。

期待される結果は、架空の識別子だけを使ったメール案です。実在する会社名や担当者名が追加されていないか、金額や日付が変わっていないかを確認します。

入力前の実行手順

1. 作業目的を一文にする

「契約書を全部読ませたい」ではなく、「公開済みの標準条項から更新条件だけを抽出したい」のように、必要な処理を限定します。

2. 情報区分を付ける

文書全体ではなく、入力予定の断片ごとに分類します。認証情報が含まれていたら、その時点で中止します。

3. サービスと契約を確認する

次を現在の公式文書と管理画面で確認します。

  • 会社が承認したサービス、アカウント、用途か
  • 入力や添付ファイルがモデル改善・機械学習へ利用されるか
  • 保存期間、削除方法、提供者による閲覧条件
  • 共有リンク、プラグイン、検索、コネクターへの送信範囲
  • 組織の管理者設定が適用されているか

以前確認した個人向けプランの条件を、現在の法人契約へ流用しないでください。

4. 不要な情報を削除・一般化する

氏名だけでなく、住所、連絡先、識別番号、詳細な日時、少人数の部署名、固有案件名なども確認します。可能なら実データを使わず、先ほどの架空データで処理を試します。

5. 入力前記録を残す

次のテンプレートを社内の承認済み記録先へ貼り付けます。

## 生成AI入力前記録

- 実施日時:
- 実施者:
- 利用目的:
- サービス/プラン/アカウント種別:
- 情報区分:公開・社内限定・機密・個人情報・認証情報
- 入力する範囲:
- 削除・置換した項目:
- 学習利用・保存・削除条件の確認先:
- 共有範囲/外部連携:
- 承認者または相談先:
- 出力を確認する担当者:
- 最終判断:入力可・保留・入力不可

成功の目安は、第三者が記録を読んでも「なぜ入力できると判断したか」をたどれることです。空欄や「たぶん」が残る場合は保留します。

6. 送信直前と出力後に確認する

送信直前に添付ファイル、選択したアカウント、共有設定を再確認します。出力後は、事実、数値、引用に加えて、入力していない個人情報や機密らしい記述が混ざっていないかを確認します。

誤って送信したときの初動

会話を削除しただけで完了にしてはいけません。次の順番で動きます。

  1. 追加の入力、共有、出力の転記を止める
  2. サービス名、アカウント、日時、入力内容、情報区分、共有先を記録する
  3. 可能なら会話、添付、公開リンクを削除または無効化する
  4. 社内の情報セキュリティ、個人情報保護、法務など指定窓口へ直ちに報告する
  5. 管理者と契約条件を確認し、提供者への連絡やログ保全など社内のインシデント手順に従う
  6. 影響範囲と再発防止策を記録する

画面上の削除は、保存済みデータやバックアップを含む完全消去を意味するとは限りません。自己判断で様子を見ず、社内手順へつなげてください。

判断に迷ったときの三択

入力可否を「はい/いいえ」だけで決めると、現場では急ぎの案件が例外として通りやすくなります。迷ったときは、次の三択にします。

判断 使う場面 次の操作
入力可 公開情報または承認済みの限定データで、目的・契約・共有範囲が明確 対象範囲を記録して実行
保留 契約、学習利用、共有範囲、再特定リスクのどれかが不明 架空データへ置換するか、窓口へ確認
入力不可 認証情報、未承認の個人情報、機密、法令・契約上の制約がある 入力を止め、承認済みの別手段を検討

「保留」は失敗ではなく、判断材料が足りないことを記録する結果です。保留理由を蓄積すると、同じ迷いを毎回個人判断で処理せずに済みます。

まとめ

入力可否は、「個人情報があるか」だけでは決まりません。用途、情報区分、契約条件、共有範囲、人の確認という5つのゲートを通し、判断根拠を記録します。

迷った場合の正しい操作は、入力して反応を見ることではなく、停止して架空データへ置き換えるか、社内窓口へ確認することです。

確認日と公式情報

確認日:2026年7月29日

参照した公式情報:

確認した一次情報

  1. Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence ProfileNIST · 2026年8月10日
  2. 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等個人情報保護委員会 · 2026年8月10日